下手くそ、ということ

本日、最初の稽古。

実は今回、主役の女に選んだのは、敢えて「いちばん下手くそな役者」だ。
いちばん「素人っぽい役者」と言ってもいい。
人前に出ることに対して、「恥ずかしい」と思える人・・・つまり、「当たり前な人の感覚」を、ちゃんと持っている人、だけど一生懸命な人、を選んだつもりだ。

 

そして、稽古をしてみてわかったこと・・

やはり、下手くそである。

私の目に、狂いはなかった(笑)


「下手くそな役者」というのは、コトバに対して不器用な役者、ということだ。

コトバだけじゃない、目の前の人間に対しても不器用だし、なにより生きていくことが不器用だ。

だが不器用だからこそ、目の前の言葉を新しく「蘇らせる」ことができる。はじめて言葉を話す赤ん坊のようにだ。そこにはイヤミがない、だからいい。

 

(ちなみに言っておくと、素人だからと言って純粋に言葉を喋れるとは限らない。素人も知らず知らずのうちに、「演技」をマネして喋ろうとするからだ。純粋にコトバを喋れる、ということは、日常生活において、すでに世界との間に「違和感」を持っている人、ということを意味する。コトバへの違和感と言ってもいい。真の下手くそとはそういう下手くそを言うのだ)


私が彼女に「あなたは白紙のようなものだから、いいのです。役者なんて慣れてきてしまうとあなたみたいに純粋に言葉を話せなくなるものです。上手い役者なんて大抵はどうしようもないですよ」なんてことを言ってもお世辞と思われたか、全然、信じてもらえなかったが、あれは本当なのですよ(笑)。私の口から出てくる「下手くそ」というのは最大の褒め言葉なのだ。「私のような下手くそに主役だなんて・・」と謙遜されてしまったが。

彼女は本番を迎えるまでのあいだに、きっと素晴らしい女優になってくれるに違いないー私の目に狂いがなければーと、今は前向きに思っておくこととしよう。