役者の三原則

今日は役者のやるべきことについてー

 

たとえば、

「あの、それ、とってください」

というコトバがあるとする。

 

普段の会話であれば、そのコトバが言えないなんてことはない。誰だっていう事が出来るコトバだ。だが同じコトバであっても、芝居のセリフで

「あの、それ、とって」

と言おうとすると、とたんに言えなくなることが多い。

もちろん、ただの音声として「言う」ことはできるのだ。だがコトバを話すということは、ただ音声として「言う」ことだけを指すのではない。

 

細かく分ければ、「あの」で誰かに振り向いてもらい、「それ」で何かを指し示し、「とって」で働きかける。

 

芝居のセリフになるとこれが出来なくなるのは、セリフというのが「前もって決められているから」だ。

何をいうのかが前もって決められているから、意識せずともコトバを言う事ができてしまう。だからただコトバを読んでいるだけで、生きたコトバにならないーそうなってしまいがちなのである。

 

普段、私たちはそんなに自分のコトバを意識しない。意識しなくても、相手に働きかけることが出来る。生きている、とは世界を呼吸していることだからだ。

だが、セリフの決まってしまっているお芝居においては、コトバは明確に「意識」しながら喋らなければならない。そうでなければただのモノローグになってしまう(正確に言うとモノローグにすらならない。モノローグもまた、自分という相手と交わす会話だからだ)。

 

自分がいま、「誰」に、「何」を働きかけているのか明晰に意識し続けることが最重要なのだ。そして大切なのは働きかけるだけでなく、それを相手がどのように受け取ってくれたか、を「読み取ること」である。そのためには相手の気配にも同時に気を配らなければダメだ。それは相手が喋るコトバに対しても同じだ。喋ってくる内容が毎回同じだとしても、それをあたかも「初めて聞くコトバ」であるかのようにとらえなければならない。そのためには、相手の気配や声、コトバに対して、毎回、毎回、意識を働かせ続けなければならない。

つまり、役者が舞台上でやるべき基本の三つは、

 

1自分が何を喋っているのか、コトバを意識すること

2相手がそれをどう受け止めてくれたか、気配を読むこと

3相手がどんなコトバで何を喋っているのかを意識すること

 

である。

 

ーふだん、私たちが無意識のうちにやってしまえることを、常に、意識して行うということ。その意味でこそ、まさに芝居とは「生きることのシミュレーション」なのである。

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