役者のダサさが素晴らしい~「六月の蛇」

塚本晋也の「六月の蛇」いまさらながら観たが、つかみどころは私の好み。

いのちの電話、盗撮、自慰にふける女、潔癖症の男、秘密クラブ、とキーワードを並べただけで、ドキドキする。面白かった。
特に中盤までは文句ない傑作。

全編、梅雨が振り続けるんだが、ムッとする体臭が漂ってくるような映画で、私的にはそれだけで及第点。
ただ後半の展開が残念だなあ。「もっと遠くに連れて行ってくれ!」という不満がある。
中盤までの「ワクワク感」からすると、本当に、もっと異世界までトバしてくれそうだったから。それはあの伝説的作品「鉄男」でも感じたこと。中盤までほんと、すごくいい。なのに作品にドライブがかかってくるあたりから、ちょっと手抜きになっちゃう感がある(笑)。尻すぼみなんだよね。

 

でもその程度の欠点など、この作品の達成した価値や志から比べたら微々たるものである。傑作であることにかわりはない。

 

この映画で特筆すべきは、「異物感」。

「鉄男」もそうだったが、この人の映画には、ゴツゴツした異物感がある。

とくに、役者のカオが、たたずまいが、凄く、いい。

何と言うか、無造作なのね。

あのね、すごくダサイの(笑)。

「人間」というよりも、「肉体」という感じなの。「物体」という感じなの。スイスイみれなくて、いちいち観ているこちらの意識にゴツゴツとひっかかるの。


「鉄男」も「六月の蛇」も、役者の「ダサさ」がとても良い。
出てくる人物が画面の中で生々しくて、なんだか本当にそこらにいる、冴えない一般人(しかも低所得の!)みたいなのだ。
この「ダサくて冴えない」ってこと、スンゲェーー大切なことだと、私は思う。
むしろ、こう言いたい気分だ。

「現代の日本においては、ダサいことが最もかっこいい!」(笑)


この国の映画って、「ダサくて冴えない役者」ぜんぜん出てこないでしょう?
みんな「洗練されすぎ」でしょう?
体臭がにおってこないでしょう?
ウンコもオシッコもしなさそうでしょう?
ツルンとしすぎでしょう?
人間のにおいがないでしょう?
なんでかって?
彼らが「商品」だからだよ。
「イメージ戦略」の一部だからだよ。
交換価値の化身だからなのさ。

だからどいつもこいつも、ツマンネェーーんだよ。

ツマンネェーーものをお手本にするから、どんどんツマンなくなるんだよ。

「売れてる」とか「売れてない」とかで判断すんなよ?ほら、そこの文化奴隷さんよ。

 

その点、この人の映画に出てくる役者たち、みんな、イメージ商品として自分を売ろうとしていない。ハダカ一貫でカメラのまえに立っている感じ。さらけだしている感じ。

だからイヤミがないの。

いわば「ゼロ」なのだ。60年代から70年代にかけての志あふれる映画を観てみりゃ、みんなそうだよ。

これは演劇も含めて、現代の日本では失われてしまった要素なのだ

だから貴重なのだ。

つまり、「反商業主義的」ということ(彼らだってギャラ貰ってる『商品』なんだけどもね)。

 

この監督、わざと「ダサくて冴えない」役者つかってるんだと思う。泥臭い作品つくるために(初期のたけしもそうだった)。
現在の日本では、「ダサくて冴えない」ことが実は一番かっこいいってこと、本能的に知ってるんだと思う。

 

映画というのは、異世界だと思うわけよ。
映画だけじゃない。演劇だって同じだろう。
それは「異世界」をみせてくれるはずのもの。
ところが、いま、この国では、もう日常から何からすべてが「演技的」なわけよ。
ドラマもCMもバラエティーも、ぜんぶぜんぶ「演技」でしょう。イメージ戦略でしょう。イメージが肉体を離れて一人歩きしているでしょう。
私たちは、そういう「イメージの波」を、小さな時からモロに浴びて育ってきちゃってるのね。
映画も演劇も「異世界」をみせないといけないのに、私たちの感性は鈍麻しちゃっていて、
「異世界」を「異世界」だと感じられなくなっちゃっているんだよ。

「イメージの世界」が「当たり前」になっちゃってるから。


だから「異世界」をつくるためには、「イメージ」を突き破らないといけない。揺さぶらないといけない。

そのためには、もっと「におい」を出さないといけない。

だからこそ、「演技をしないこと」「素であること」「ダサいこと」「素人くさいこと」が、とても重要なのだ(わかるかね?そこの文化奴隷)。
誰もが「プロっぽい」(イメージ戦略っぽい)からこそ、それを裏切ることが、必要なのだ。

 

それがつまり、私たちが無意識のうちに身体化している「演技」を解体する、ということなのだ。

若干の不満は残るとはいえ、その意味では塚本晋也の「六月の蛇」、志に溢れた傑作である、と思う。

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コメント: 2
  • #1

    キョンシー (日曜日, 30 11月 2014 12:25)

    私も塚本映画、好きです。B級感がいいですね。
    それにしてもあんまり普通の役者を批判するようなことを書いていると、竹内さん、ご自分の作品に出てくれる役者の人が寄ってこなくなってしまうのではないか・・と、それが心配です(笑)

  • #2

    keitai0 (日曜日, 30 11月 2014 13:55)

    ご心配ありがとうございます。
    しかし、この程度で寄ってこなくなるなら所詮、それまででしょう。
    それに、失うものがないからこそ、好き勝手書ける強みがありますし(笑)