秀才の答案のような映画~「嘆きのピエタ」

鬼才の呼び声たかい、キム・ギドクの「嘆きのピエタ」を鑑賞。

2012年ヴェネツィア映画祭で金獅子賞をとったというから、そりゃもうトンでもなくスゲェ映画なんじゃないか、と期待して観た。

 

で、結論から言うと・・・

決して悪くない映画。
ひとコマひとコマの繋ぎがダレてなくて好感触(スピードがやや「たけし」に似ている)。

それと鰻とかウサギ、鶏などの小動物を比喩としてもってくるのがいい。

韓国だとああいう生き物を家庭でさばいて食する、というのが普通なのだろうか、ああいうのを殺して齧って食らってるのをみると、「ああ、人間は他の生き物を屠って、食うことで、生きていけるんだよなあ」という「当たり前のこと」が、あらためて目の前に突きつけられてくるようで生々しい。

「たべる」っていうことの「生々しさ」。

そういうのは今の日本の生活からは、感じ取れないものだわな。

 

で、だ。この映画、全体としていうと・・・・
パンチが足りない。
この「何か足りない感」は、たけしの「HANABI」に似ているかな。
消して悪くないんだが、この程度の映画だったら他にいくらでもあるんじゃないの?という。

あらすじは、


「主人公ガンドは借金の取立て屋である。街の零細企業に金を貸しては、利率10倍というとんでもない高利をふっかけ、金を払えなくなった人々の手足を折ったり潰したりすることで障害者にし、その保険金を稼ぎとしてふんだくる。そのため彼は人々から冷血非情と恐れられ、また憎悪のマトとなっている。

そんな彼のもとにある日、謎の女がやってくる。

彼女はガンドが生まれたと同時に捨てた「母」だというのだ。

はじめは頭のおかしな女だと思って相手にしなかったガンドだが、次第に女を「母」として受け入れはじめ、それと共に人間的な感情を取り戻していく。が、謎の女は実は彼の「本当の母」ではなかった。彼女はガンドによって障害者にされ自殺した息子の「復讐」を果たすため、「母」を装い、ガンドに接近したのだ。さて、その復讐とは・・・」

 

と、いったところか。

この作品のキモは、復讐にきたはずの女が次第にガンドへの母性を目覚めさせられてしまう、という点と、冷血非情なガンドが母の愛情に触れて人間らしさを取り戻していく、という点だろう。
この二点がラストの悲劇性を高めることになる。

それはいいんだが・・・観終わってまず、

「??、これ、ほんとに傑作か?平凡じゃないか?」

と当惑し、

「でも結構の人が褒めてるし、賞、受賞してるし、俺、なにか見落としてるのかな?コンディション悪かっただけかな?

と思い直し、目を皿のようにして(笑)、もう一回、最初から観直してみることに。


そして最終的な結論は・・・・

やっぱり、変わらない。イマイチだ!

この映画、「謎の女があらわれる」「その女が母としてガンドに接する」「それに呼応してガンドに人間らしい表情があらわれはじめる」「母が消失してガンドに焦りが生まれる」
というあたりまでは、悪くない。彼ら登場人物の匂いを感じる。


ただその後、「母としてあらわれた女は実は復讐者だった」という設定が明らかになってくるあたり(その前から伏線で匂わせているが)から、物語を描写するばっかりで、人物の描写がおろそかになる気がする。


言いかえると、描写が安易になる。観客にサービスし過ぎ?


 ハナシの終盤は、次第に「ただ物語の筋をおいかけさせられているだけ」という印象になってゆく。


私は、基本的にストーリーテリングに重点を置きすぎる映画は、凡作だと思っている。

大切なのは絵、だ。絵によって人物を、テーマを、描く、ということだ。小説ではなく、これは映画なのだから。

それにアクション映画じゃあるまいし、筋を追っかけるのはどうでもいいから、もっと絵によって人物を感じさせてくれ、そしてこの映画の主題であれば、「人間の業」について感じさせてくれよ!と思ってしまう。あるいは、もっと人物の造形を深めてくれよ!と。
役者は懸命に演じているのだが、懸命にやられればやられるほど、観ているこっちは「アタマで筋を処理する」だけで、「生きた人物」がちっとも三次元的に立ち上がってきてくれないのだ。
たしかに、「水辺に植えた松の木の下で母とともに眠る絵」やラストの絵には、綺麗だったり迫ってくるものがあったりで悪くないんだが、肝心の人物造形が小説の描写のように説明的だから、最終的には決定力が足りなくて、これではダウンは奪えないよ。全然!

ほんとうはガンドの孤独や、憎しみながらの哀れみ、という「母」のアンビバレントが、つまり「人間の業の深さ」スクリーンのあっちからひしひしと迫ってこなければいけないのに、いまひとつ、弱い。決して伝わってこないわけじゃないが、弱い。「アタマでの理解」はできるが、ガツン、と来ない。靴の上から足を掻かされてる感じ。
 
繰り返すが決して悪い映画ではない。

が、群を抜いて飛び抜けたものがない。
一言で言うなら「偏差値の高い優等生がつくった『先生に好かれるテストの答案』」のような映画、かなあ。


 「鬼才」がどんなものをつくるのかと期待し過ぎた、ということもあるのか、ちょっと肩スカシを食った感がある。