静脈


「つらいのね苦しいのね」
声が流れてきたのは

明け方ちかくの

静脈のなか

「あなたは

どこかに閉じ込められた子供のまま
この世を呼吸できないで
生きてきた
なにをみてもどこへいってもだれといても
カラダをすぼめたまんま
あなた壊れ易い紙の箱みたいだから
そっと把手をひいてやらないと
壊れてしまう
あいつらはやがて地獄におちる
わたしだけはあなたをわかる
わたしだけが」

カオ中を涙でぬらして
目を覚ませば
いつもの一日のはじまり
繰り返すこの日常をどこかで曲がれば
あたらしい自分が待っているかね
一撃でこの無意味な一生から
救ってくれるかね
それまでの
辛抱さ なあに それまでの
気が付けば

70回目の初夏

今日も一日が
燃えつきる
ぼんやりと ぼんやりと蛍火みたい

ああ
あなた


いつか本当の自分が
いつか救いが
いつの日か本当の自分が
本当の日々が
本当の日々が、

すてきなまいにちが

すてきな

 

へっ、来るもんかえ

そんなもの



ぼんやりした自分をくっきりさせられないまま
沈殿した疲れだけが確かに重い

ぜんぶがうんざり
明け方の声を
さがして息をとめ
静脈を浮かせ

突き刺す

ああ どうか
どうか
もういちど

心から泣かせて
この霧を切り裂いて

わたしを切り裂いて

あなた

「わたしだけはあなたをわかる
わたしだけが
わたしだけが」